八卦掌の基本功(換掌と単操)
八卦掌の基本功である換掌(転掌)と単操について紹介します。
八卦掌の換掌と単操
八卦掌の基本功には大別すると換掌と単操があります。
換掌…走圏(定式八掌)の転身動作。転掌とも呼ばれる。
単操…基本功の単式練習。単操手とも呼ばれる。定勢八掌のいずれかと連動する事が多い。
換掌にしても、単操手にしても、走圏(定勢八掌)と連動する動作が多いため、次項以降で各走圏ごとに八卦掌の基本功を紹介します。
推磨掌(龍形)の換掌と基本功
八卦掌のもっとも基準となる走圏である推磨掌には、八卦掌の特徴である螺旋の力が全身に内在され、指先には纏絲の力が集約されています。
推磨掌の換掌や単操では、この螺旋の力、そして指先へと集約する力を強化する事を目的としています。
推磨掌の換掌
葉底蔵華の目的は、螺旋勁の習得と強化です。ゼンマイを巻くがごとく、左右に転身を繰り返し、中心軸を強化すると共に螺旋力を蓄積させていきます。
推磨掌の基本功
単換掌
単換掌は、本来八卦掌の套路(型)ですが、その目的は技法というよりも、螺旋勁の習得と強化にあるため、基本功の項で紹介する事にしました。
扣歩と擺歩を用い、全身で平円での螺旋勁を練っていきます。
八卦掌では、単換掌の錬功で得た螺旋の力を、他の功法や技法へと活用していきます。
穿掌
穿掌も本来は、八卦掌の技法ですが、基本功としての意味合いも強いため、本項で紹介します。
理由は、八卦掌の技法は、多かれ少なかれ穿掌を母体としている事が多いからです。
穿掌も最終的には螺旋の勁と融合して用いますが、初期段階では推磨掌で強化された指先を、上下の内功(ピストン)を用いて打ち出します。
そして、この上下の内功こそが八卦掌の技法の根幹となります。
下沈掌(熊形)の換掌と基本功
下沈掌では走圏で練り上げた中心軸に対して、上から下へと圧力をかけ、逆に下から上へ向かう抗力を養成します。
この抗力が、上下の内功の基となり、前述した基本功としての穿掌や本項で紹介する双撞掌などの動きを生み出します。
下沈掌の換掌
下沈掌の換掌は、平円と立円がありますが、ここでは熊形の特徴である立円での換掌を紹介します。
熊形翻身(別称 黒熊反背)は、熊が翻りざまに、前足で撲る動作です。
技法としては、劈の動作ですが、単なる技法としてだけでなく、勇猛果敢な熊の気勢を練ります。
下沈掌の基本功
双撞は、下沈掌の走圏で得た抗力を、背中を通して、前腕ごと前方へ放出します。
馬貴派の双撞掌は、同じ八卦門の中でもかなり独特だと思います。ここでは大きく表現していますが、寸打で練る牛力掌という技法もあります。
托天掌(鷹形)の換掌と基本功
托天掌には、開、托、圧などの意があり、中心軸と両腕の連動性を重視した走圏です。
托天掌の換掌
托天掌の換掌は、馬貴派では上体はそのままで、扣擺歩を用いて行います(単と順があり)。
イメージとしては、前述した葉底蔵華の動画の後半部分をご覧下さい。
程派の老八掌では、開合動作を伴なった換掌を行います。
托天掌の基本功
托天掌の基本功には、開、托、圧などがあります。
開掌
大鵬展翅の開合動作の開(翼を広げた動作)を強調した基本功です。手の平を上にした場合は分水掌と言います。
単に腕を開くのではなく、体の中心軸から胸を開くように行います。
双圧掌
双圧掌では、両手を上に上げたげた状態から、両腕を左右に広げながら、下方に圧します。
やはり単に腕を広げて落とすだけでなく、中心軸と連動させ、胸を開くように行います。
指天挿地の換掌と基本功
両腕を上下に広げ、伸張させた指天挿地には、逆に収縮する力(合勁)が内在されています。
指天挿地の換掌
残念ながら、私が学んだ馬貴派や程派、宋派の八卦掌には指天挿地の換掌は伝わっておりません。
ただ指天挿地の形態を見るに、2種類の換掌が考えられます。
一つは双換掌の前半部分を用いたもの(撩掌→指天挿地→転身)
もう一つは、指天挿地の主目的である劈を用いたものです。
指天挿地の基本功
指天挿地の意味するところは、上下の伸張と収縮です。この動きを用いた技法は数多くありますが、ここでは代表例として劈掌を紹介します。
劈掌
劈は振り落とすという意味ですが、単に腕を振りかぶって落とす訳ではなく、体の右半身と左半身をそれぞれ上下に伸ばし、伸ばしたものが収縮する合の力を利用します。
劈の力は、後々さまざまな技法で活用します。
単勾式の換掌と基本功
単勾式には、他の走圏と同じく螺旋の勁があると同時に、托天掌と同じ開や圧の勁、そして両腕をそれぞれ逆にねじる事で、纏絲の力も内在しています。
単勾式の換掌
単勾式の換掌には、穿を意識したもの、開を意識したもの、撩や圧を意識したものとありますが、ここでは開を意識した換掌を紹介します。
用法的には、太極拳の野馬分鬃や単鞭に近い技法です。
単勾式の基本功
単勾式の基本功には、開、圧、撩、穿などがあります。
ここでは、撩の基本功である双撩掌を紹介します。
双撩掌は、前述した双圧掌と相反する動作です。
両手を下で交差(合)させた後、両腕を同時に上へと開きます(開)が、その中にも単勾式の特徴である虚実があります。
獅子張口(獅形)の換掌と基本功
ライオンが口を広げた獅子張口は、上下と前後の方向線が交わり、八卦掌の特徴である立円運動を内在しています。
獅子張口の換掌
獅子張口の換掌にも平円と立円がありますが、ここでは獅形の特徴である立円の換掌を紹介します。
獅形翻身から生まれる技法としては、動画の後半にある転身探掌などがあります。
獅子張口の基本功
獅形の特徴として立円運動がありますが、立円運動にも大と小があり、また上から下へ向かう立円と下から上へ向かう立円とがあります。
獅形から生まれる技法としては、蓋掌や挑打など多数あります。立円で養った功夫を直線の軌道で用います。
その他の基本功
ここまで紹介したように八卦掌の基本功は、走圏と連環したものが多いですが、他にも多数の基本功が単式練習として伝わっています。
その中から一部を抜粋して紹介します。
雲片掌
龍形の換掌で紹介した葉底蔵華を発展させた基本功です。
体の柔軟性を高めると共に、全身を用いた螺旋勁を養成します。
燕子抄水
燕子抄水は、燕が水面をかすめるように滑空する動作で、螺旋をさらに進めた纏絲勁を練ると共に、下盤(下半身)を強化します。
八卦掌の套路に良く出てくる動作です。
龍形撞掌
八卦掌の特徴的な技法である単撞掌などを打つ内面的な仕組み(内功)を形成します。
まとめ
今回は、八卦掌の基本功である換掌と単操について、一部を紹介してみましたが、いかがだったでしょうか?
換掌にしても、単操手にしても、走圏(定勢八掌)と連動する事が多いため、各走圏ごとに紹介してみました。
実際には、八卦掌には他にも多数の基本功が存在するため、機会を見て追記していきたいと思います。
基本功全般に言える事は、この練習は何のために、どの練習と連絡するのかを考えて練習したほうが良いと思います。
例えば、套路に含まれるある技法の動きがどうしても上手くいかないとしましょう。
それは、その技法を構成する基本功の習得が不十分な場合がほとんどです。
その場合は、その技法の素となる基本功に戻って練習する事をおすすめします。
今回も最後までお読み頂きありがとうございました。
八卦掌の走圏については、以下の記事をお読み下さい。
八卦掌の技法については、以下の記事で紹介しています。